日本でプロレスをすることとは?クリス・ブルックスインタビュー

クリス・ブルックスのペンシルアーミー加入を受け、ペンシルアーミーのメンバーに対する責任として、そして私自身もクリス・ブルックスの見てきたものを知りたかったので、ルル ペンシルとして話を聞いた。
イギリスからプロレスをするために日本へとやってきた彼が、日本のプロレスの環境をどう思うかを知ることは、プロレスとは何かを理解するためにも重要だと信じるからだ。実際に、私は彼の話を聞いて、自分が今まで知っていたつもりのことがあまりにも不完全であったことを知った。
クリス・ブルックスが日本でプロレスをするということは、彼にとってどんな意味があるのか。そのことを、本稿を読んでぜひ、知ってほしい。
英語で行われた本インタビューには、インドでプロレス団体を創設し、イギリスでの経験も豊富なインド人レスラー、バリヤン・アッキが同席し、英語でのコミュニケーションのサポートや、海外のプロレス事情について補足してもらっている。

――プロレスラーとして日本で過ごすのはどんな気分?
クリス:イギリスにはcompanyはほとんどないから、DDTみたいなちゃんとしたcompanyでプロレスができる今の環境は最高だと思う。

――私はいくつかのイギリスのpromotionを知っているけど、それらとcompanyとは別ものという認識でいいの?
クリス:日本でのプロレスはビジネスだけど、イギリスでは多くの場合、プロレスは趣味と捉えられることが多い。お金を稼ぐ手段というよりは、何かほかの仕事をやって、その傍らプロレスをしているというプロモーションが多い。
アッキ:プロフェッショナルというのは英語の意味としては、「食べていける」ということ。何かほかの仕事をやってそちらで生計を立てながらという意味ではなく。

――でも、あなたはイギリスでプロフェッショナルのレスラーだったんだよね?
クリス:そうだね。その意味では、私はプロフェッショナルだったよ。(生計という意味でもそうだし、)税金の計算やグッズの収益の管理ギャランティの振り込み、スケジュールの調整なんかをせずに、純粋に試合だけに臨める、そういったプロフェッショナルなレスラーは、イギリスにも昔はもっといたと思う。それがちゃんとしたcompanyと仕事しているという意味かな。
日本では会場入りの時間や集合時間、ホテルのブッキングもちゃんと伝えてくれるけど、イギリスでは会場にたどり着くまでの手段や細かい時間は自分で決めないといけないし。
アッキ:イギリスでは誰と試合するか、会場に行くまで場合によっては言われないこともあるからね。
クリス:どんな曲を入場で使う?っていうのはイギリスでは自分で確認しないといけないけど、DDTでそんなことを言う必要はない。きちんと準備されているからね。大日本に行ったときにも、どんなコールをしてほしいか、入場曲について自分から伝える必要もなかった。
アッキ:脱いだジャケットが、きちんと控室で畳まれて戻されているとかね。

――いやでも、それってチョコプロでは選手が自分でやらなきゃいけないことも含まれるけど……それは大丈夫なの?不満ではない?
クリス:気にしてないよ。
アッキ:チョコプロはめっちゃ小さいけど、companyとしてちゃんとしている部分はちゃんとしている。ギャランティも銀行にちゃんと振り込まれるし。
クリス:イギリスでペンシルアーミーに入ってたら、ダンガリーはきっと自分で買わないといけなかっただろうしね。大きすぎても、ルルが直してくれたし。

――(藤田さんは自分で買ってたけど……)あなたは日本でプロレスをする環境にはすごく満足してるんだね?
クリス:もちろん、イエス。日本でプロレスをするのは、more funだよ。イギリスでインデペンデントのレスラーとしてやっていくということは、本当にインデペンデントなことで、それぞれの立場の人間がまず自分の主張を持っているし、個人個人の利益や思惑がすごく強い。それぞれが自分の想いを優先するから、ときに過酷なスケジュールになることもあるし、一方では次の月に試合があるかどうかもわからない。
でも日本ならば、DDTにはいくつものブランドがあって、それぞれのブランドに、お互いの選手が気を遣って参戦できる。たとえ私が大日本プロレスに参戦しても、クリス・ブルックスfrom DDTと紹介される。そのことをみんな当たり前のことだと思ってくれる。company間での選手のやり取りは、イギリスではちょっとネガティブなことと捉えられることもあるからね。
アッキ:たとえば日本でゲストの選手がフライヤーを客席に置いても、参戦した団体は嫌な顔をしないけど、日本以外の国ではそれが断られることもある。

――日本にもいろいろな問題はあると思うけど、クリスの話を聞いていると、プロレスをしていく上ではここがすごくいい環境だってわかったよ。私は初めからここにいるから、わからないし見えないことも多いんだろうね。
クリス:もちろん、ときどきもどかしく思うこともあるよ。礼儀正しいのはいいけど、それがいきすぎて、話が進まないこともあるし。でも、プロレスラーを仕事として考えて、キャリアの未来図を思い描くなら日本でプロレスをする方が何倍も可能性があると思う。

――なるほど……。
クリス:ルルは外の世界が自由に見えているかもしれないけどね。
アッキ:そういう意味では、ルルはいま新しい視点で考え直してるんだろうけど。でもそれはすごくいいことだよ。さっきのインデペンデントの話でいくと、「いや私の考え方はこうだから」と考えを変えない人も多いから。
クリス:もちろん、あらゆる場所にいい点と悪い点はある。でも、インデペンデントの世界で、自分のやりたいことや自分のキャラクターを自由に表現しつつ、試合したいところで試合ができて、きちんと仕事として試合ができるという安心感がある、そういう自由と安心感が両立できるのは日本だけじゃないかな。
アッキ:アメリカで大きい団体で試合をしたい場合は、その団体にしか出れなくなる場合が多いよね。安心感はあるけれど、やりたいことができなくなる。逆にインデペンデントなところにいけば、自由にできるかもしれないけど、来月には試合があるかどうかわからない。

――あなたは自分のプロデュースショーもやってるよね。イギリスでも自分でプロデュースするショーをやっていたし。
アッキ:クリスはイギリスでいくつかのプロモーションを立ち上げてたよ。
クリス:そうだね。アンドリューズやピート・ダンといった、友人たちと一緒にね。

――日本でプロデュースするショーは、イギリスよりも大変だったりする?
クリス:大変なこともあるけど、満足感はより大きいね。イギリスで自分のショーをやるとなると、選手のブッキングやリングの設営など、とにかく全部のことを自分でやらないといけない。入場曲とか、使う音楽のプレイリストだって自分で作らないといけないし。
日本でのプロデュースショーでは、私自身がしないといけないことはほとんどない。ビジュアルのデザインとかは自分でしてるけど。

――はたから見てると、クリスはすごく精力的にいろんな活動をしているように見える。それによって達成される、あなたの夢とかゴールって何かあるの?
クリス:うーん、夢とか大きい目標とかそういうのはないよ。がっかりさせてごめんね、ルル。
たとえば私のプロデュースショーでは、すごく自分勝手に、自分の見たいカードを提案しているしね。私のプロデュースショーには、自分の興味ある試合しかないんだ。目標って意味では、自分のやりたいカードを決めて、時に自分でその試合をやって、好きなようにできているんだよね。日本にいればイギリス以上に、すごくいろいろな選択肢があるし。
いろんな人が夢とか目標を聞くけど、私の夢は日本に来ることだったから。日本にいてプロレスをすること。それはまさしく、今の状況そのものだ。日本に住んで、インデペンデントに活動ができていて、チョコプロにも出ていて、長年の間熱心に見ていた新納刃と試合ができている。メカマミーともね。高梨将弘やさくらえみとは友達として一緒にいる。すごいよね。
アッキ:ルルがクリスの言っていることをすんなり理解できない理由の一つは、クリスがどれほど日本のプロレスを見てるか、ここ(日本や市ヶ谷)でおこなわれている事がどれほどすごいことかわかってないからだと思う。
クリス:それに、プロレスのことを抜きにしたって私の生きている時間は素晴らしいと思うよ。何といっても東京に住んでいるんだ。DDTが私を必要としていて、素敵なアパートで目覚めて、ジムにも行けて、新宿や渋谷で友達と飲むことができて、それが毎日のことなんだ。自由に溢れた人生を生きていて、おまけにプロレスができている。素晴らしい事だと思わない?