フロリダの雨

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フロリダはアメリカ南東部、半島として突き出た場所に位置する州だ。

キューバにほど近く、気候は温暖で、今ではどうだかわからないけれど、ニューヨークの証券会社で一生分稼いだあとはフロリダで悠々自適の生活を送るというのが、アメリカにおけるいわゆる「憧れの人生」なのだと教えてもらったこともある。そういう場所なのだ。

フロリダでもっとも有名な土地はおそらく南部に位置する州都のマイアミで、全米でも有数のビーチリゾートだ。一方のオーランドは、フロリダよりもやや北に位置しており、世界最大のディズニーランド、ディズニーワールドを有することでも知られている。というか、オーランドが現在のような保養地として認識されたのは、そもそもがディズニーワールドの建設がきっかけだ。まさしくリゾート地といった趣のこの土地には、湿地帯を埋め立てて作られた人工的な風景が連なり、いつでもどこかが工事中だ。プロレスファンにとって重要な土地であるタンパは、オーランドから西へ車で1〜2時間ほどの距離だろうか。

オーランドでは、真夏の東京のようなゴロゴロという遠雷が毎日のように雨を告げる。空調の効いた室内ではその雨の激しさを知るべくもないけれど、まとわりつく湿気の中を、濡れ果てた地面を小さなトカゲが這い回るのを目にすれば、この土地がどういうものを含んでいるのかを何となく感じ取ることができる。虫やカエルの鳴き声、蛾の張り付いた壁、どうやらワニもいて、そしてディズニーランドやユニバーサルスタジオ、宇宙センターもあるのがオーランドなのだ。

ミルウォーキーに向かう飛行機が、雨で離陸の遅れを余儀なくされた。二時間近く、駐機場で足止めを喰らい、冷房が効きすぎた機内では乗客たちが暇を持て余す。毎日の夕立の激しさを知れば、夜の便ではこれからも同じことが起こりうるだろうなと、水を配るキャビンアテンダントの様子を見ながら考えていた。だが、私が英語にまだ慣れていないせいかもしれなかったけど、乗客には焦りはあっても肌を刺すような苛立ちは感じられなかった。

冷え切った二の腕を抱きながらまどろんでいると、まだまだ全ては聞き取れない英語でのアナウンスが耳に届く。

「天候の影響により、まだ離陸はできません。でも、天気のことは私たちにはどうすることもできません」

なんて明快に、事実を捉える言葉の連なりだろうと私は夢の中で嬉しくなる。

足元を擦り合わせながら、アパートの庭の石造りの庭を、雨あがりに横切るトカゲたちの姿を、私は思い出していた。